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北朝鮮問題家を斬る:201 - 新年共同社説 プリント メール
2010/01/22 Friday 17:45:19 JST
 此処数年、『産経新聞』紙の久保田るり子さんの論評を基軸にして、新年の共同社説を論じてきた。だが、2010年は法政大学の南雲和夫講師が―新年三紙共同社説から読む北朝鮮経済の課題と日朝国交正常化の必要性―という「試論」を寄せて来た。其処で「南雲試論」を基軸にして一言論じることとした。むろん、南雲試論の一部を取り上げているだけで、南雲試論の全体を取り上げた、と言う分けでは無い。

 南雲講師に付いては、何の予備知識も無い。あるのはコンドルに公開質問状を送った勇気ある大学の先生だと言うくらい認識である。尚、共同社説の訳文はRP訳に従った。

 南雲講師は、2010年北朝鮮新年三誌(『労働新聞』『朝鮮人民軍』『青年前衛』)共同社説「党創立65周年を迎える今年、再び軽工業と農業に拍車を掛け、人民の生活で決定的転換を成し遂げよう」を、現在の北朝鮮経済が抱えている課題と日朝国交正常化の必要性から論じている。

「われわれが自らの力と技術によって人工地球衛星『光明星2号』を成功裏に打ち上げ、2回目の地下核実験を成功させたことは、強盛大国建設において壮快な勝利の砲声を響かせた歴史的出来事であった。城鋼で主体鉄生産体系完成の万歳の声が沸き上がり、われわれのCNC技術が世界の先端を確固として突破したことは、偉大な主体思想の大勝利であり、われわれの尽きない経済・技術的潜在力を示威した全国家的・全人民的な慶事である」

この箇所を南雲講師は、新たな鉄鋼生産システムの技術が獲得されたことと、また生産システムが「主体製鉄」-おそらくは、自前の技術によって鉄鋼生産の技法が獲得されたものであることが述べられている、と評している。果たして、そうであろうか?問題は主体鉄が何を意味しているか?それにCNCに関わる技術導入でどの様に北朝鮮が苦労したか?考究されていない。

 主体鉄の生産もそうだが、北朝鮮は国家の総力を技術導入に賭けている国でもある。其処に「党の領導の下に全人民的な総決死戦が力強く展開される中で、国の経済が本格的な上昇段階に入った」と述べる真意が読めない。むろん、これは経済状況が好転に向かいつつあることを強調した、とは受け取られないからである。

 北朝鮮が主張しているのは、核とミサイルを開発した意義であろう。白頭山神話を国家建設の基底にする北東アジアの諸国、例えば女真族の金王朝などは、経済的に豊かな南宋からの貢納で国家を運営した。軍事力が強力であれば、南の経済強国から貢ぎ物が届けられるものである。

 だから、以下の

 「朝鮮労働党は、われわれの時代の最も老熟し、洗練された革命の参謀部であり、わが人民に価値の高い生と、この上ない幸福を与える偉大な母なる党である。党創建65周年は、わが党の建設と主体革命偉業、人類の自主偉業の築き上げた偉大な領袖金日成同志の不滅の業績を輝かせ、革命の首脳部の周囲に一心団結し、世界が羨むほどの社会主義強盛大国を建設していくわが軍隊と人民の高い民族的気概と必勝の気性を誇示する意義深い契機となる」


 これは北朝鮮の「欲しがりません 勝つまでは!」の宣言であろう。だが先軍政治の現状からは、朝鮮労働党の実像が見えて来ない。

だから、

「人民生活を高めることは、経済実務的事業ではなく、父なる領袖の遺言を貫徹し、人民の千万の理想を花開かせるための わが党の偉業の正当性を誇示する重要な政治的事業である。われわれは、人民生活向上のための全党的、全国家的な総攻勢を激しく展開することにより、大高潮の勝利がさらに大きな勝利につながるようにし、意義深い今年を人民の幸福があふれる繁栄の年にすべきである」


を、南雲講師は、以下のように論じている。

 人民生活の向上は、「単なる実務事業」ではなく、故・金日成主席の「遺言」であり、「朝鮮労働党の偉業の正統性を示す重要な政治的事業」ともされている。おそらくこれが、北朝鮮が2010年に最も重点とする経済戦略であると思われる。昨年末に実施されたデノミも、2002年7月1日から実施された「経済管理改革」によって引き起こされたインフレーションへの一般国民の不満対策という側面があったにせよ、結果としてそれが十分でなかったことが伺える印象である。

 と、評している。だが、これでは、人民生活の向上とは?何なのか、南雲試論では読み取られていない。北朝鮮の人民の幸福感は、対米戦争を戦っていた帝国臣民しか理解出来ないであろう。北朝鮮に於ける人民生活の向上とは、配給体制の完備であろうか。帝国が対米戦争を戦っていた当時、日本人は配給体制の元で明日の勝利を信じていた。南雲講師は今の日本人の感覚で市民生活の幸福度を捉えてはいないか?北朝鮮には人民しかいない。それは対米戦争時の帝国に臣民しかいなかったようにである。

 だから、南雲講師は工業力発展の展望に関わる箇所の以下の主張、

「鋼材が生まれてこそ、コメも生まれ、機械も生まれる。金属工業部門は、われわれの原料と燃料に依拠した主体鉄生産能力を高め、党が提示した銑鉄、鋼鉄、圧延鋼材の生産目標を必ずや占領すべきである。電力工業部門では、火力発電所のフル稼働を保障することに力を集中し、煕川発電所の建設をはじめとする大規模水力発電所の建設を積極的に推進すべきである。石炭工業部門では、火力発電所、化学工場をはじめとする重要プロジェクトに必要な石炭を無条件で生産、供給し、近代化を推し進めて生産能力を不断に高めるべきである。鉄道運輸部門では、軍隊のような強い規律と秩序を確立し、新たな機関車と貨車をさらに多く生産し、鉄道の近代化、線路の重量化を実現すべきである」


に対して、以下のように指摘している。すなわち、人民生活を向上させるためにも「金属工業」「電力興業」「鉄道運輸部門」の発展ないしは能力向上が必要である、との視点で見ている。

 果たして、南雲講師が受け止めたような、北朝鮮は鉄道の近代化、線路の重量化を自力で実現出来るであろうか?北朝鮮のコークス事情はどうなっているのか?共同社説から推し量れない。人民生活の向上とは?何なのか?読み間違える心配が南雲試論から感じられた。南牛は、此処で気付いたのは、「煕川発電所」の固有名詞に注目した。既報のように、北朝鮮は濃縮ウランの製造に成功し、今は自前の軽水炉の建設に掛かっている。その場所が何処なのか?分からなかった。常識的には支援で建設されていた軽水炉建設予定地か?「興南」だろう?と読んでいたのだが、発電所の建設予定地に「煕川」の名前が挙がっていることで、共同社説からは水力発電所となるのだが、本当だろうか?と思っている。それでも、原子力発電所の建設がはじまっている、ことだけは共同社説の此処の部分から読み取れる。

 それではウラン濃縮で自信に溢れる国防工業の分野において、どの様に言及されているのか?

「先端突破戦の基本戦線である国防工業部門において、強盛大国の大きな扉をたたく勝利の砲声が引き続き鳴り響くようにし、人民経済のすべての部門、すべての単位で先端突破の熱風が起こるようにすべきである。科学技術と生産を密着させつつ、自らの技術開発能力、製品開発能力を高めることに中心を置き、近代化、科学化を将来を見越して行うべきである。21世紀の要求に合致するように科学技術の発展戦略を正しく立て、核心基礎技術と重要部門の技術工学、基礎科学を急速に発展させるべきである。科学者、技術者らは、頭脳戦、技術戦でわが祖国を世界に輝かせるという覚悟を持ち、先端突破の前哨兵、科学技術強国建設の旗手としての役割を全うすべきである。至るところで、先端を突破して新たな基準、新たな記録を創造するための大衆的技術革新運動を活発に展開すべきである」


 南牛は、ここの「先端突破戦の基本戦線である国防工業部門」の内容だが、それは北朝鮮に於ける「通常兵器」の遅れはどうしょうも無い現状の反映と見た。如何にすれば韓国へ追いつけるのか?という長年の課題が背景にある、とも読んだ。北朝鮮の通常兵器は韓国からかなり遅れている。韓国の通常兵器の生産能力は、日韓交渉の成果として70年代から発展した。今では韓国は優れた武器輸出国に進化している。

 それを直視していたのが金日成であった。金日成国家主席が日朝国交に「死力」を尽くしたのは北朝鮮の通常兵器生産力を韓国に近づける為であった。

 その遅れた国防工業に依拠している人民軍に付いて、例年、誌面が一定程度割かれている人民軍に関してはどうであろうか。

「今年、党の提示した戦闘目標を占領するためには、人民軍を核心とするわれわれの革命隊伍の威力を各方面から強化すべきである。(中略)人民軍隊は、“偉大な金正日同志を首班とする革命の首脳部を命懸けで死守しよう!”というスローガンを高く掲げて呉重洽第7連隊称号獲得運動の炎をさらに激しく燃え上がらせ、すべての将兵を敬愛する最高司令官同志そのままの軍事優先革命の前衛闘士、領袖擁護精神で心を燃やす肉弾決死隊として育てるべきである。革命的領軍体系と軍風を確立するための事業を党政治事業の主要な線として堅持し、絶えず深化させ、全軍に敬愛する最高司令官同志の命令、指示を無条件で貫徹するという軍人気質が満ち溢れるようにすべきである」


とあるが、此処の表記の驚きは帝国が対米戦争末期に用いた特攻隊精神の発露を踏襲していることであろう。今、イラクにしろ、アフガニスタンにしろ、或いは9.11に象徴される米国そのものへの戦闘にしろ、威力を発揮するのは「自爆」である。呉重洽戦士は守りの戦いで発揮された決死擁護であったが、“領袖擁護精神で心を燃やす肉弾決死隊として育て”られた人民軍の前には、韓国国軍に限らず、米軍も人民解放軍も、戦いを挑めば膨大な出血を覚悟させられる、と言う事になる。

 日本の北朝鮮問題家諸氏に言いたい。北朝鮮の脅威と言うか、強い人民軍とは何か?西岡力教授から毎日新聞の鈴木某などは、核とミサイルに求めている。しかし、昨年の共同社説もそうであったが、人民軍の強さは、その「決死擁護」の精神にある。

 其処から、先軍政治の北朝鮮の方向性を南北関係、及び対外関係を、

「今年は歴史的な6・15北南共同宣言発表10周年にあたる年である。
 2000年の北南首脳対面と6・15共同宣言の発表は、祖国統一偉業の遂行において巨大な意義を有する歴史的出来事であった。6・15共同宣言の旗に従って自主統一の新時代が開かれ、北南関係の発展と祖国統一運動ではこれまでなかった成果が達成された。6・15共同宣言の実践綱領である10・4宣言が採択され、わが民族が自主統一と平和繁栄の道を前進してきたこの10年間は、両北南共同宣言が最も正当な統一大綱であり、“わが民族同士”こそ6・15統一時代の民族精神であり、唯一無二の理念であることを明白に実証した。」


 金大中、盧武鉉両大統領が金正日総書記と握手した背景には、金持ち喧嘩せず、の精神が見え見えであった。両大統領は、歴史的には南宋を見習った外交政策を採った、と見られる。北朝鮮を中原に樹立した女真の金王朝に類似する政権だと、受け止めていたようだ。

 南北関係を南宋と金との関係と見る歴史的な理解を欠くと、北朝鮮の国防委員会の「報復の聖戦」という声明が読み採れなくなる。「中朝貿易が激減」(『讀賣新聞』1/20)の現状から、北朝鮮が生活必需品を韓国に求めている現実が見えてくる。決死擁護の人民軍を前に、李明博大統領は1万屯の食糧援助で済むと思っているのだろうか?

 其処から、北朝鮮の望む対米関係とは、

「今日、朝鮮半島および地域の平和と安定を保障する上で提起される根本的問題は、朝米間の敵対関係を終息させることである。対話と協商を通じて朝鮮半島の強固な平和体制を整え、非核化を実現しようとするわが方の立場は一貫している。わが党と共和国政府は、自主、平和、親善の旗高く、各国との善隣友好関係を発展させつつ、世界の自主化のために力強く闘争していくであろう」


だから、米国に対しては、相変わらず直接対話を求め、朝鮮戦争における休戦協定を平和協定に変えていきたいとの希望が率直に述べられているといってよいだろう、と南雲講師は論じている。

 そして南雲講師は、共同社説の特徴として、経済分野、とりわけ、農業と軽工業への重視が挙げられる。農業分野では、過去にも強調されたジャガイモ栽培革命だけでなく、実利主義という言葉で市場経済に適合した農作物の生産を奨励しているといってよい、と断じてもいる。

 さらに、鉄鋼の生産で一定程度の技術革新があり、それがまた今後の各種産業へ波及するとの期待が示されていることである。さらに、これらの生産現場に人民軍兵士を動員することを社説で明記したことも特筆すべきであろう、と鉄鋼の生産に技術革新があったと南雲講師は断じている。

 その上に、対外関係では、米朝関係の改善、とりわけ朝鮮戦争の休戦協定を、何とかして米国との平和協定に持ち込みたい、との希望が相変わらず述べられている、と南雲講師は断じている。

 そして、残念なことに今年の共同社説でも対日関係への言及は見られないが、このことは北朝鮮の政府・党指導部が、対日関係の改善が必要でないと考えている、ということではおそらくないだろうと南雲講師は断じている。

 確かに、新年の共同社説から日本に言及することが無いに等しいのは異常である。だが、それは日本が厳しい経済制裁を行い、北朝鮮経済が打撃を受けているからである。昨年は近年希に見るマツタケの豊作であったに関わらず、貴重な外貨を北朝鮮にもたらさなかった。それに東海岸での豊漁が伝えられた紅ズワイガニも安く、華僑から買い叩かれ、大陸の市場へ流れていった。

 アサリ、シジミ、紅ズワイガニ、ウニ等々、日本の水産市場を豊かにしてきた。それらを日本は経済制裁で輸入を閉じ、一部地方経済を圧迫して仕舞った。更に、北朝鮮の医療体制は日本の医薬品で支えられていた。それも供給を閉じて仕舞った。

 南牛は医薬品の対北朝鮮輸出を閉じたことは「人道問題」だと思う。北朝鮮へ人権、人道を説くのなら、日本の経済制裁も人道問題に留意した政策を採るべきではなかったのか。これらのことを考えると、北朝鮮は腹が立って腹が立って日本のことなど一言も論じたく無くなるであろう。朝鮮人は「根に持つ」民族である。大陸の漢族が扱い難い民族の筆頭に挙げている、そうである。

 そして南雲講師の共同社説の締めは、「こうした点を北朝鮮政府当局者が留意しているのか否かは不明だが、北朝鮮の国内経済問題に言及した記事を読むと近年、いわゆる鉱業や天然資源開発に関する記事が目立つ。そして実際、欧州の企業の中にはこれらの鉱山・油田などについて投資を進める企業が相次いで進出し、有望な市場とみなされているのである」と、断じている。

 北朝鮮がロシアへ接近し、ヨーロッパとの連携を希望していることは事実であろう。だが、日本からのインフラ投資が進まない限り、欧米の投資は成功しないであろう。だが、日本が欧米に先駆けて北朝鮮との間に友好関係を結ぶことを、金丸訪朝、小泉訪朝などの経緯を見ると分かるそうだが、米国は後ろから手を回して邪魔した、と見られている。この度、民主党政権が誕生し、幾つかの訪朝話が口端に上る、とゼネコン疑惑が浮上して来た。

 これでは北朝鮮はまともに日本を相手に出来ないであろう。日本は後回しにして、先ず米国からとなるのは詮無いことである。だから、南雲試論が「日朝国交正常化は、もちろん植民地支配とそれに伴う様々な人的被害への補償のためにも不可欠である。と同時に、日本にとって北朝鮮が“脅威”であればなおさら、今後のわが国の“経済安全保障”を考えた際、鉱山資源を中心とした北朝鮮の経済開発にかつての“宗主国”として第一義的に其の責任を果たすべきと 考えるのは、年頭に当たり果たして意味のないことであろうか」と締めても、外交的に自立していない現実がある。

 米国の経済危機は、その経済回復を一早く1929年の経済恐慌から脱出した帝国の鮮・満経営の前例に学ぼうとしている、と一部で指摘されている。これは裏返せば、風は北朝鮮の方に吹いている。米国の経済回復に「北朝鮮」が使われるからである。

 南牛は率直に言いたい。北朝鮮は共同社説に置いて、もう少し自国の立場が強化されていることを言うべきでは無かったのか。朴鳳瑄先生ではないが、先軍政治の前に赤色支那は困惑し、米国はにじりよりつつある、のだ。

 長年に渡って北朝鮮の新年の論説を分析してきた玉城素先生の仕事を改めて読むことを南雲和夫講師に勧めたい。更に、元NHK職員の畑山康幸氏の諸論文を読むことも薦めたい。北朝鮮の芸術を論じる場合には、畑山康幸氏の諸論文は参考資料として欠かせない、必読文献である。

2010年1月22日 南牛 安部桂司
 
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