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在日朝鮮人出身の李明博韓国大統領の誕生を受けて! -北朝鮮3紙共同社説を読む- 安部桂司 (「月刊日本」2008年2月号掲載)
1:『朝日新聞』紙の新年からの報道新年元旦の『朝日新聞』紙の一面見出しは「環境元年」、怒る天、人に牙であった。「温暖化の脅威 急加速」ともある。記事からは、温暖化により九州のコメの品質低下に歯止めがかからない、状況が読み取れる。 1月3日付けの一面は「排出権取引膨らむ市場」とあり、市場原理を温室効果ガスの削減にいかそうという考え方は、97年に採択された京都議定書で盛り込まれ、この考えを世界に先駆けて市場をつくったのがEUであり、CO2が経済を回している実情を紹介している。 そして一面の下段、「天声人語」の上には「パキスタン 総選挙来月に延期」と、ブット元首相の暗殺による暴動を報じている。その2面が「カモにされる日本」とあり、排出権購入額、兆単位に?とそして5面の「経済」欄は「エコに商機」と、バイオ燃料への税制優遇策から、大手の信託銀行が排出権取引に本腰を入れ始めた、と勧説している。 4日付けの一面は冒頭に「NY原油一時100ドル」の見出しが踊っている。「株・ドル急落、金急騰」との見出しも並んでいる。原油高が金相場に波及し、史上最高値を付けたそうである。 5日付けの一面は「大株安 原油高が震源」と、一時765円も下げた原因を、原油高、円高、米国株安を挙げている。そして、5日付け「社説」は、原油100ドルを受けて「ロシアに代表されるような資源囲い込みに動く資源ナショナリズムの台頭」に対し、省エネで2度の石油危機を乗り切った日本には、世界に貢献できる、と説いている。問題は、この省エネ技術を何が支えているか、どの様な素材が支えているかである。そこは容易に推察されるのが特殊鋼であり、その製造に欠かせないレアメタルの存在である。それに金価格の急上昇が重なり、北朝鮮のレアメタル含有鉱山と金山の存在を国際的に注目させた。 6日付けの一面には「李明博氏 シャトル外交意欲」という見出しが掲載されている。日本の大学に学んだ大統領は居たが、在日朝鮮人出身の韓国大統領の出現は初めてであろうか。北朝鮮の1人あたりの国民所得を10年間で3千ドルに引き上げる、ことを李明博次期大統領は公約に掲げている。それには400億ドル規模の国際協力基金を必要とする、との記事である。何でもその基金には、日本の資金を充てたい、らしいのである。だから、形式的な面会よりも用事があるたびに頻繁に会う、シャトル外交に意欲を示したという。韓国の次期大統領は日本から資金を引き出して北朝鮮の国民所得を引き上げる、腹らしいことが読み取れる「記事」であった。 2:「共同社説」
この新年からの『朝日新聞』紙を読み重ねると、『労働新聞』(朝鮮労働党機関紙)と『朝鮮人民軍』(軍機関紙)と『青年前衛』(青年組織機関紙)の三紙に掲載された、2008年にあたっての北朝鮮3紙共同社説(以下「共同社説」)が読みやすくなるのである。 「共同社説」のテーマは「勝利の信念高く、軍事優先朝鮮の一大全盛期を切り開いていこう」である。冒頭に、「我々は今日、社会主義朝鮮の希望に満ちた未来に対する大きな抱負と楽観を抱き、新年・主体97年を迎える」からはじまり、昨年は、軍事優先北朝鮮の軍事的威力が世界に誇示された、と暗に核実験後の情勢を語っている。更に、その軍事優先で対外的に権威が高まり、善隣友好関係を結ぶ国が増えた、そうである。 この北朝鮮の軍事優先を支えるには、10代、20代の英雄を多く輩出させなければならない、と人民軍を叱咤激励し、「全ての青年を革命の首脳部を決死擁護する軍事優先の青年英雄、銃弾・爆弾英雄としてしっかり準備させなければならない」という。これはブット元首相の暗殺にゆれるパキスタン、巨大な米軍を引きつけているアフガニスタン・イラクの軍事情勢を見極めての発言である。深読みすれば、人民軍に「銃弾英雄」「爆弾英雄」の準備を指示したことは、北朝鮮へくちばしを挟もうとする周辺諸国への警告、そして恫喝ともなっている。軍事優先は「核」だけではありませんよ、「自爆」もありますよ、というのであろうか。 そして「経済強国建設で新たな飛躍を成し遂げることができる展望が開かれた」と、採掘工業、金属工業などで技術改善が推進されたので、石炭工業部門に対する投資を増やし、探査と掘進を優先させることを説いている。強盛大国建設の主要攻撃戦線は、経済戦線だといい、「わが人民は、廃墟から社会主義を建設した英雄的人民であ」るから、厳しい試練を乗り越えることができる、と強調している。つまり、採掘と金属の部門を主要な攻撃戦線にすれば、朝鮮戦争後の廃墟から社会主義を建設したように、強盛大国の建設も可能だというのであろう。 その一方で「山林造成をはじめとする国土管理と環境保護事業を遠い将来を見通して百年の大計として着実に行っていかねばならない」と、国土緑化事業を説いている。これは北朝鮮が排出権取引の関連事業へ乗り出したことを意味している。雨が降れば洪水をもたらす北朝鮮の禿げ山が、今日排出権取引の市場から熱い視線が寄せられている。 飛躍すれば、「共同社説」は、『朝日新聞』紙の新年からの報道に符節するのである。精一杯なのか?力一杯なのか?北朝鮮は世界情勢を見極めている。 3:マスコミはどの様に読んだか?
では北朝鮮から、知的な当てにされている『朝日新聞』紙は、共同社説をどの様に報道したのだろう。その見出しは「南北経済協力“推進を”」であり、サブタイトルが「北朝鮮3紙社説 核問題触れず」であった。その解説内容を要約すると、韓国には経済協力事業の拡大を訴え、米国には「敵視政策を終わらせ、休戦協定を平和協定に切り替える」よう求めたが、核施設の無能力化や核計画申告など6者協議の履行状況には言及しなかった、となる。記事は三段抜きの49行であった。 参考までに、『朝日新聞』紙以外の主要各紙は、「共同社説」をどの様に報道したのか?大変興味あることであった。其処で最大発行部数を誇る『讀賣新聞』紙と、北朝鮮に対する独自の情報網を持つと伝えられる『東京新聞』紙を読んだ。ご存知の様に、『東京新聞』紙は中京地区へ行くと『中日新聞』紙となる。かって、金日成が大きな関心を払い、金正日国防委員長も期待しているなどと伝えられる地域の報道機関でもある。 さて、『讀賣新聞』紙だが、その見出しは「韓国に支援継続訴え」であった。その内容は「韓国側に積極的な経済支援を継続するよう呼びかけた」で、16行であった。 一方『東京新聞』紙は、「米は敵視政策 解消するべき」の見出しで、「米国の敵視政策を終わらせ、休戦協定を平和協定に切り替え、南朝鮮の米軍基地を撤廃すべきだ」と主張した箇所を取り上げている。記事の総量は『讀賣新聞』紙の倍の32行であった。 4:そして、久保田るり子記者は?
北朝鮮と言えば張り切るのが『産経新聞』紙であり、共同社説の解説は昨年に引き続き久保田記者の署名記事であった。ちなみに、朝日、讀賣、東京の三紙も京城特派員報告の体裁を取った記事であった。そして『産経新聞』紙だが、囲み記事であり、6段で60行もあり、量的には『朝日新聞』紙を抜いていた。 その見出しは「北、韓国次期政権に秋波」であった。この「秋波」の意味だが『新明解国語辞典』には、色目、流し目の意の漢語的表現とある。では「色目」だが、「気が有る様子をして異性を見やる目つき」とある。久保田記者は、北朝鮮の「柔軟姿勢の背景には、核無能力化や核計画申告の停滞による支援の停滞や、日本などの経済制裁に伴う経済難と食糧難がある」と、「共同社説」を読み、「韓国の李明博次期大統領に直接の言及は避けつつも“秋波”を送った」と解説した分けである。つまり、北朝鮮が韓国に「媚」を売っている、という意味で久保田記者は使ったのであろう。 しかし、軍事優先を説く北朝鮮が、何で韓国に媚を売らなければならないのか?理解に苦しむ処である。むろん、『讀賣新聞』紙でも「韓国が保守政権に交代した後も、対北支援で消極姿勢に転じないよう求めた」と分析している。だが、「求めた」ことと「秋波」との間には距離があろう。日本では親朝派の新聞と目されている『朝日新聞』紙は、「昨年10月の南北首脳会談の意義を訴え、採択された平和繁栄宣言の“徹底的な履行”を求めた」とあり、「共同社説」は北朝鮮が自信を持って南北間の協力と交流を今後も拡大していく方針を打ち出した、読むべきではなかろうか。 そして久保田記者は「日朝関係への言及はなかった」と、他紙同様に「共同社説」を読んでいるが、それでは字句通りの読み方ではないだろうか。北朝鮮が日本の事には触れず、韓国の次期政権へ「訴える」ことが出来るのだろうか?確かに、「日本」という字句は見掛けなかったが、その内容は日本抜きに語られない、解説出来ない「共同社説」でもあった。 5:李明博に期待される「大ソウル改造計画」
「共同社説」を精細に読めば、決して南朝鮮(韓国)へ流し目を送ったものではない。久保田記者は「共同社説」を意図的に誤読している。北朝鮮は熱い統一への思いを語っているが、媚を売ってまで韓国から援助を受けようとは考えてもいないのである。 李明博次期大統領は在日朝鮮人を出自としている。その経歴から伺えることは、日本との距離が近いことである。少なくとも、盧武鉉大統領のような、日本との間に障壁が無いことは明白である。6日の『朝日新聞』紙が伝えているが、日本とはシャトル外交を展開し、北朝鮮の経済強化のために必要な資金を引き出すと述べている。 李明博氏は京城(ソウル)市長時代に、市中心部の環境改善で大きな成果を挙げている。そこから「大ソウル改造計画」の腹案が伝えられてきた。むろん、真偽の程は明らかでない内容だが、軍事境界線の北側に一大ゴミ焼却場を建設するというものであった。ソウル市の東西、南への道路は交通渋滞だそうである。唯一、北方への道路が速やかにトラックを走らせることが可能だという。ソウルは盆地の町である。空気の滞留からくる大気汚染が進行している。その解決への一助がゴミ焼却場を北方へ移すことであろう。 韓国から地質調査団が北朝鮮へ派遣され、レアメタル資源が豊富であることが確認されている。レアメタルは特殊鋼生産に欠かせない資源であり、レアメタルを用いた「資材」が省エネ技術をささえるのである。そして、北朝鮮はレアメタルの産出に欠かせない電力を欠いている。その電力生産を約束できるのがゴミ焼却に基づく発電所の建設である。 むろん、この「大ソウル改造計画」は、今は噂の段階である。7日の『朝日新聞』紙には、「ナポリ ついに埋まる」と伝えている。何でもゴミ収集がストップしたそうである。道路にゴミ袋が溢れて歩行困難に陥ってそうである。このナポリのゴミ騒動はNHKテレビがニュース映像を流した。ナポリに比べると遙かに大きいのがソウルである。今日、世界の都市はゴミ処理事業に追われている。北朝鮮はレアメタルを中心に採掘と金属工業を発展させたい。そのためには、李明博氏は日本だけでなく北朝鮮にも秋波を送らざるをえないのである。だから、安易に北朝鮮が秋波を送っているなどと情勢を分析すると、進行しつつある北東アジア情勢を見誤るであろう。(「共同社説」はRPの訳に拠る) 平成20年1月7日 安部桂司 |