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2010/09/07 Tuesday 17:14:43 JST
 
 
北朝鮮の「新科学技術発展五カ年計画」に付いて プリント メール
2005/11/26 Saturday 00:27:43 JST
亜細亜大学アジア研究所所報 第113号
(平成16年1月30日)
北朝鮮の「新科学技術発展五カ年計画」に付いて
安部桂司

 1、長期経済計画への着手

 北朝鮮が幾つかの長期経済計画を立てていることは、韓国側から伝えられていた。「聯合ニュース」(二〇〇三年十一月六日付け)が、その一つである。その報道によると、北朝鮮はエネルギーと食糧難を解決し、科学技術水準を引き上げる計画である。その具体的内容は、エネルギー需給三カ年計画、八〇〇万トン食糧増産五カ年計画、新科学技術発展五カ年計画などである。このいずれの長期経済計画も起年は二〇〇三年となっている。その計画達成の成果は労働党創建六〇周年で問われることになっている。二〇〇五年はエネルギー需給三カ年計画の最終年度であり、他の二つの計画は中間年度でる。

 エネルギー需給三カ年計画は発電所の設備更新と電力生産に必要な石炭増産が主要骨子である。石炭増産では鉱山機械の改善が述べられている。経済復興の要であるエネルギー問題に国家の力量を傾斜させようとしている。北朝鮮では二〇〇五年に事業目標であるエネルギー需給計画が達成されれば、それを土台として二〇〇六年から第二段階に入り、最先端技術を導入し、不合理な工業構造を改め、新しい工業部門も創設する計画である。北朝鮮は一〇年前に第三次七カ年計画(一九八七~一九九三年)を終了した後、一〇年間も新しい経済計画を立てられない状況であったが、科学技術を総動員することで直面する課題の解決を図り、経済を回復させようとしている。

 次いで、八〇〇万トン食糧増産五カ年計画では、科学営農を実現して食糧生産を倍増させることを目標としている。問題はその「科学営農」の内容だが、北朝鮮が推進するのは、作物の品種改善、土壌に合う二毛作、化学肥料の効率的利用などである。稲とトウモロコシを中心にした単純な農業構造を多様な穀物生産構造へ転換出来れば、農業生産に不利な気候条件にも対応出来る、つまり農業構造改善が改善だとみているようである。これはリ・ヨング農業科学院コンピューターセンター所長が述べた見解である。

 農業科学院コンピューターセンターではまた、先ず二〇〇三年から黄海南道の安岳、銀泉、載寧、信川などの四郡にコンピューターを活用した「情報農業」を導入し、生産実績を二〇〇二年の一・五倍に引き上げれば、その手法を全国展開して八〇〇万トンの目標が達成出来るとも述べている。旧ソ連の報告には、風味がよく調理が簡単なことから、農民たちは明らかにトウモロコシよりもアワを好んでいる、とあり、穀物生産の多様化は注目される改善計画である。


2、科学技術発展計画五カ年計画とは

 そして、科学技術発展五カ年計画は、二〇〇三年一〇月末に開かれた「全国科学・技術者大会」で第二次計画として提示された。

 在日本朝鮮人科学技術協会(科協)の機関誌では、表に示すような「新科学技術発展五カ年計画」として、二〇〇三年六月に公開されている。前述の聯合ニュースによれば、先行する第一次科学技術発展計画は一九九八年を起年とした五ケ年計画とされ、二〇〇三年を起年とする計画は第二次計画とされている。科協の機関誌では、一九九八年当初「新しい科学技術発展三カ年計画の中心課題は重要科学技術部門を高段階に発展させ、最新科学技術による人民経済の現代化を積極的に推進する」と述べられていた。つまり、二〇〇〇年までに科学技術展望目標を達成することは、今後の発展の土台を築くとされていたのである。だから科協の機関誌は「新」を「科学技術発展五カ年計画」の頭に付けてその内容を表に示したのである。この表は一部で訳されて、マスコミ関係で紹介されていた。

 その内容を紹介した『AERA』誌(二〇〇三年十二月二九日-二〇〇四年一月五日号)によれば、北朝鮮ではとくに電力面の疲弊が著しく、その電力不足が軍事面から民生まで圧迫しているという。表の冒頭に電力生産の改善が示されているのである。

 「聯合ニュース」が北朝鮮のエネルギー計画等を伝えた以降、ラヂオプレスが発行する『RP北朝鮮FAXニュース』では、幾つか電力生産で気付かされることがある。例えば、

「慈江道で興州青年二号発電所建設進む」(十一月十四日号)
「電力生産で成果・城川江(咸鏡南道)の各発電所」(十一月二六日号)
「慈江道内の中・小型発電所で〔電力生産闘争〕」(十二月三日号)
「各地で中・小型発電所の建設が最終段階に」(十二月四日号)
「各地の水力発電所が電力生産に奮闘」(十二月五日号)
「慈江道が中小型発電所の建設推進」(十二月八日号)
「平安北道内の中・小型発電所が電力生産を推進」(十二月十二日号)

 など、順次国内の電力生産の事情が伝えられている。その止めの報道が「平安北道の発電所建設事業を現地指導─金正日総書記」(十二月二二日号)である。

 その内容は、北朝鮮でも雨量の多い泰川地域に幾つかのダムを建設し、水力発電所の建設が進んでいるというものであった。だが、泰川郡は核開発で問題となっている寧辺地域に隣接しており、金正日はダムの建設現場を視察し、「泰川四号発電所まで完工すれば、泰川地区に大水力発電基地を建設すべきだという偉大な領袖(故金日成主席)の遺訓教示を輝かしく貫徹することになる」と述べているが、この「故金日成の遺訓教示」には、米国ではTVA総合開発による水力発電に依拠して「原爆」が製造されたことを重ね合わせて考える必要がある。それ故、前述の平安北道と隣接する慈江道中心の水力発電所建設の報道については、この一帯が北朝鮮では年間雨量が突出して多い地域であるにしても、核開発との関連を想起しておくべきであろう。

 エネルギー問題では、この他に太陽熱の活用が「全国住民用燃料・燃焼器具展開く」(十一月二〇日号)の報道内容に盛られており、メタンガスの活用と石炭の増産も報道されている。その中で電力問題では、火力発電と風力発電の項目が「科学技術発展五カ年計画」に立てられているが、五カ年計画の最初の年である二〇〇三年の暮れの報道内容を見る限り、エネルギー分野は水力発電が主流を形成している。そして、それらの水力発電所は、軍事関連工場が存在する地域に突出して建設が進められている。まさに、「軍事優先の旗を高く掲げて国防工業をさらに発展させて」(『労働新聞』十一月十二日付け)いるのが実情である。


 3、北朝鮮の科学技術政策とは

 北朝鮮では科学技術は国と民族の発展を実現する基本の鍵だとされ、社会主義強盛大国とは科学技術強国であり、科学技術的保証がなければ強盛大国の建設が出来ない、とされている。また強盛大国は自力更生の旗の下に建設する、とされている。つまり、北朝鮮を強盛大国にするには、先ず科学技術を発展させねばならないが、それは自力更生の旗の下に行うと、金正日は言っている。ところが、金正日は、従来金日成の説いた自力更生が今日の状況に合わないので、新たな自力更生を取らねばならないと説いている。北朝鮮における自力更生の概念が変わったのである。
 どのように変わったのか。従来は、例え遅れた技術や設備であっても、提起された問題を自力で解決することに少しでも助けになる技術や設備であれば、それを積極的に導入した。内容的には、朝鮮総督府施政下で建設された設備を使うに当たって、不足する資材を日本から輸入する、或いはメンテナンス技術を導入して行くことも自力更生として認められたのである。むろん、遅れた技術や設備の中には旧ソ連を先頭とする社会主義諸国からの援助で建設された工場も入っている。

 しかし、その様な自力更生は今日に合わないとされ、科学も最新の科学に依拠し、機械設備や生産工程も最も現代的なものを導入し、最高の水準で最大の生産を挙げるのが今日の自力更生、新しい自力更生だと言うのである。この新しい自力更生は、金正日により「実利を保障する自力更生」だと説かれ、実利を保障しつつ自力更生して初めて、北朝鮮の財と富を決定的に増やして国力を強化することができ、北朝鮮の原料、資材、電力の緊張問題を解決できる、と言うのである。

 ここは、親父(金日成)の時代は北朝鮮の資源に拘りすぎた自力更生であったが、自分(金正日)は違う、と述べたのであろう。この間、韓国側から自給自足の経済政策が自己矛盾に陥り、北朝鮮経済は倒壊すると指摘されている。自国の資源に拘る自力更生が経済性を損なうこともあるので、活用できるのなら日本から原料・資材を運んで来ても良いというのである。つまり、実利を保障される自力更生では、日本から廃タイヤ、放置自転車を運んでも構わないということになる。だが、一方で科学も最新の科学に依拠することが述べられているが、それを北朝鮮国内の人的資源に依拠することは、かなり難しい。そこで考え出されたのが、愛国愛族的な科学事業を活発に繰り広げるという金正日の「基本指針」である。

 伝えられる金正日の「基本指針」は「全ての海外同胞は熱烈な祖国愛を持って、力のある人は力で、資金のある人は資金で、知識のある人は知識で、社会主義祖国の富強発展の為に特色ある寄与をしなければならない」である。具体的にそれに応えて来た海外同胞は在日朝鮮人であり、科協では会員たちは「愛国愛族の一途に総集結して、任せられた栄誉ある科学技術事業を責任持って遂行する」と述べている。

 それに金正日の時代になっての特徴は、海外同胞に在米韓国人が加わったことであろう。それは北朝鮮を故郷とする在米韓国人によって「科協」(在米同胞科学技術協会)が結成され、祖国の科学技術発展に寄与することがその規約に唱われている。更に海外同胞の概念に韓国人も加えられてきたことである。それは日本からの技術移転がともすれば、朝鮮総督府施政下で建設された施設を活用するか、或いはそれを発展させる分野に傾き勝ちであったからだ。

 しかし、この科学技術発展五カ年計画の内容を検討していけば分かることだが、かなりの分野が日本との科学技術交流なしには存立しないのである。在米科協の協力を仰ぎ、米国からの導入を見込んでいる表の終わりの部分に示されている先端科学技術の分野に関しても、具体性が見えて来ない。米国からの技術導入をもくろむだけでなく、韓国からの導入をもくろんでいることは明白であるが、米国同様に安全保障と知的財産権の問題が大きな障壁となっている。

 この安全保障上の問題こそが金正日の科学技術政策の根幹を成し、自力更生の頭に付く「実利」とは、軍事優先を意味している。それを言明しているのが、金正日の次の言葉である。「軍事は国事の中の第一の国事であり、国防工業は富強祖国建設の生命線であります。軍事と国防工業を離れては、経済強国も建設することができず、国と人民の安寧も考えることができません。わが国では軍事が第一であり、国防工業が優先です」(『金正日選集』第14巻)

 その国防工業には最新の科学技術の導入成果が優先的に集中されており、北朝鮮では最も優秀な科学技術力を有している。つまり、国防工業に優先的に力を入れる経済建設が北朝鮮の運命、社会主義の運命に関わる死活的な問題だと金正日は提起し、これが北朝鮮では「金正日総書記の独創的路線」だと言われている。
 このような北朝鮮の科学技術政策に馴染まないのが、韓国と米国である。だが、最近の韓国の科学技術政策では、民族の統一と知的財産権保護のため北朝鮮との科学技術交流が必要視され、韓国の安全保障の確保との間に矛盾を来たしている。それが北朝鮮の狙いでもある。一方、米国は核問題に象徴される安全保障に厳しい目を注ぎ、韓国のみならず日本からの技術移転にも注意を払うようになっている。


4、展望

 北朝鮮の科学技術政策を検討していけば、その発展が依拠しているのが韓国、在日朝鮮人、在米韓国人の科学者であることは明らかである。北朝鮮の科学技術政策が、大量破壊兵器の開発に繋がる技術を包括しているだけにその導入には今の北朝鮮の外交政策では大きな困難があると言わざるをえない。

 金日成の時代、第三次七カ年計画(一九八七~九三年)に入る前に開かれた労働党中央委員会第六期第十一次全員会議で「技術革命の推進や鉄鋼生産を高める」ことが決議された。問題はこの決議の中身である逼迫するエネルギー需要の問題がこのときも取り上げられた。当時は社会主義諸国との連帯があり、旧ソ連から石油も輸入できた。それに、イラン・イラク戦争は激しく続いており、武器輸出も盛んに行われた。それに加えて知的財産権の国家管理が甘い日本から必要とする技術も導入できた。資材に関して言えば、玉城素氏が指摘するように北朝鮮は核開発で核燃料の再処理に必要なトリブチルホスフェー卜から核燃料再処理槽に使われるステンレスまで輸入している。日本の安保認識には甘いモノがあった。

 この北朝鮮労働党中央委員会第六期第十一次全員会議の決定は、『金日成著作集』で、その内容を知ることが出来るが、それからほぼ二〇年経過しているに関わらずそれは「新科学技術発展五カ年計画」に掲げられた課題の大半を含んでいる。この事実は当時抱えていた課題の多くが引き続き存在し、より深刻化した問題となっている。その原因を社会主義圏の崩壊に求めることは容易であるが、真の原因は金正日の進める先軍政治に対し、日米韓が安保上と知的財産権の保護の立場から技術移転に厳しく対応している点に求められる。それでも、最大の実利を追求すると言う経済管理システムの改善が科学技術部門に新たに適用され、更に二〇〇四年の新年共同社説でも、この五カ年計画への期待が述べられているのである。

(あべけいじ・技術史研究家)

 
 
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