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【ネットで透る北朝鮮】1:産業スパイ「科協」(現代コリア2004年2月号-第438号)
●ごあいさつ
拙書「サイバー北朝鮮」(白夜書房刊)の書評を頂戴してはや二ヶ月、今月号より本欄を執筆させていただくことになりました。宜しくお願い申し上げます。
嘘を流布させるなら、真実に紛れ込ませるのが最も効果的である。はからずもインターネットには、この真理が何人も意図せぬうちから充満する情報空間と化している。宝石のような真実は、根拠のない噂や虚偽の堆積に埋もれている。しかしそれが「インターネットから得られた情報など当てにならない」という印象や判断を生じさせているとすれば、悲しいことである。 今月から数回にわけて、インターネットから得られる「公然情報」を分析することで、これまであまり語られることのなかった北朝鮮の一側面、おもに対日有害活動組織について、その姿を追跡してみようと思う。情報源を明らかにし、またネット調査の手法を「パソコンの苦手な」読者の皆様を想定し簡明に記すことで、ご挨拶に代えさせていただければ幸いである。
●在日本朝鮮人科学技術協会(科協)とは
「黄喆洪(理学部11期)・在日本朝鮮人科学技術協会会長」「鄭明洙副会長」「朱炫暾顧問」。 朝鮮大学校のホームページには、大変興味深い記事が掲載されている。「科協代表団『韓国科学技術情報研究院』の招聘で大田、ソウル訪問」と題されたこの記事に眼を走らせると、北朝鮮の科学技術を研究する人間にとっては驚くべき記述に出くわす。なんと、科協メンバー数名の名前が、そのまま載っているのである。 今月はこの記事を手がかりに、筆者の近著「サイバー北朝鮮」の「その後」をつづってみようと思う。公然情報を読み解くことで、北の産業スパイ集団と噂される謎の組織「科協」にどこまで迫れるか。
在日本朝鮮人科学技術協会(科協)。昨年に発覚した1994年のジェットミル不正輸出事件で、セイシン企業をいわばダミー企業として活用していた疑惑で話題にもなった、朝鮮総聯の傘下団体である。 朝鮮総聯公式ページには「1959年6月28日結成。略称、科協。在日朝鮮自然科学者、技術者、生産業者を網羅した社会団体である」と説明されているものの、実は「北朝鮮の軍需産業を担当する第二経済委員会傘下企業の"朝鮮科学技術協調社"などを通じて、日本の科学技術情報を北朝鮮に送る産業スパイ集団」といわれている。 1999年4月、朝鮮科学技術協調社のメンバーを中心とする朝鮮科学技術交流団が、二度にわたり訪日した。訪日の目的は「軍需物資の調達、あるいはそれに関連した情報収集」というのが、専門家の一致した見解であった。 この朝鮮科学技術協調社の「出先機関」である科協……。有名国立大を卒業した在日朝鮮人科学者らで組織され、学術報告会などを開催するその一方で、専門知識を生かして日本国内でミサイル関連機器を調達しては、北朝鮮に送っているという指摘も出ている。 長らく科協は「謎の組織」であり、現在も然りだ。メンバーの名前がこれまで網羅的に発表されたことはなかった。かつてネット上に存在した科協の公式ページにすら、メンバーの紹介はなされていなかった。 主要メンバーのリストを掲げる「在日韓国科学技術者協会」とは、その情報公開度はまったく異なる。 先の記事から拾える科協メンバーの名前は以下の通りだ。 会長:黄喆洪(理学部11期) 副会長:鄭明洙、崔一? (「科協代表団『韓国科学技術情報研究院』の招聘で大田、ソウル訪問」より。敬称略) |
難しい漢字名ばかりだが、さしあたりここでは二名の人物をご記憶願いたい。科協副会長の「鄭明洙」氏、そして顧問の「朱炫暾」氏である。
●科協がひしめく国内IT企業とその周辺
では手始めに「鄭明洙」氏の名を、ネット検索の基本中の基本、Googleで検索してみるとしよう。「キララ」なる愛らしい名称のホームページが見つかるであろう。 キララ(KIRARA-Korean Information Research and Resource Association)という英語名称を持つ「在日コリアン同胞による科学技術者ネットワーク」が、サイトの説明どおり「年4回の定例会」をはじめ活発に活動しているのかどうかは不明だ。ページの著作権表示から察するに、2000年以降は更新されていないのではないかとさえ思える。 KIRARAが設立されたのは1997年の2月。"Welcome"を見てみる。仲間の在日朝鮮人科学者たちへ宛てたかのようなメッセージがある。96年末のおそらくは忘年会だろう、夢に燃える若き研究者たちとの楽しげなひとときと、新年の抱負が綴られている。 著者署名は「1997年旧暦の正月、KIRARA会長・鄭明洙」。文章を注意して読むと、簡明な筆致のなかにこの書き手の性格を漠然と推し量ることができよう。若者に慕われ、興が乗れば徹夜も厭わず、会長として独善的ではない……そして「未来の扉を開く英知を惜しまぬ研究者」「民族の血を受け継ぐ者」「強い絆」「永遠のテーマ」など、若者に呼応する情熱的な語句が散見される。 掲示板には投稿が殆ど見られない。だが「行事案内掲示板」には2003年3月29日に開催された「第5回KIRARA会および新年会」のお知らせがある。東京の文京区本郷にある学士会館分館で夕方から行われたこの催しでの講演者は、やはり鄭明洙氏となっている。 先の"Welcome"をもう一度見てほしい。この文が書かれた翌年(98年)の忘年会、ひいては情報技術研究者の集まりについて、「目標は全国区で 100名、関東だけで60名」としている。閑散としたホームページの一方では、今年も「第6回KIRARA会および新年会」が開かれるだろう。設立から7 年、鄭明洙氏のもとに集う「目標値」はとうに達し、強い紐帯で結ばれた在日朝鮮人情報技術専門家たちは、それぞれの役割を担って活動を続けているはずだ。それは、一般社会に知らしめる必要もなければ、あるいはなるべくなら知られてほしくない類のものかもしれぬ。KIRARAホームページが事実上「死んでいる」にもかかわらず、2002年にはパスワードで制限されていたページが「工事中」に変わるなど、微妙だが機能的に大きな変化があったのは、KIRARA が秘かに動いていることを間接的に示している。 ところで、KIRARAの「鄭明洙氏」は、科協副会長の「鄭明洙氏」と同一人物なのだろうか。順当に考えればそうとしか思えないのだが、KIRARAには「会長は科協メンバー」とは記されていない。 さて、ここでKIRARAサイトのURLと、記載されている連絡先のメールアドレスに注目してほしい。 ホームページをホスティングしているのは「アスクネット」だ。トップページのお知らせには「2002年12月を持ちましてプロバイダサービス業務をすべて終了」とある。だがアスクネットの利用会員(アスクフレンドサイト)を紹介するページは残されており、金剛山歌劇団や在日本朝鮮青年商工会をはじめ、総聯と関係する組織をいくつか見いだすことができる。また遊戯機器や朝鮮半島との貿易業務を扱う企業も見られ、朝鮮総聯が公式に認めていない「隠れ総聯系企業」を調べるための、格好の端緒を提供してくれる。。 コンピューター系には「銀星囲碁」や、北朝鮮のWnk/KWコードを入力できる入力ソフト"Wink"を搭載したハングル入力システムを販売する企業、CGS社もある。 いうまでもなく「銀星囲碁」の開発元は北朝鮮のソフト開発機関、朝鮮コンピューターセンター(KCC)であり、"Wink"は同じく北朝鮮の平壌情報センター(PIC)である。CGS社は自らを北朝鮮系企業とは名乗っていないものの(企業沿革には「KCC、中国延辺電子情報センターと技術交流と経済合作に関する合意書締結」とある。但し「KCC」の説明はなし)、取扱商品から察するに北とのつながりが長く、そして非常に強い……というか、まるで北のソフト専門販売代理店の相を呈している。 企業沿革を見ると、CGS社が91年、日本の銀行のオンラインプロジェクトにも参加していたことが記載され眼を引く。 筆者はこれについては何もコメントするつもりはない。 現在ではインターネットによる預貯金の入出金があたりまえとなっている。「ネットバンキング」は、今後ますますインターネットに依存する電子社会の根幹をなす要素の一つだ。十数年前、そのシステム構築の基礎部分にも、科協の影を窺うことができるのだ。 これを「在日とのうるわしき共生の形」と捉えるか、あるいはそこはかとなく慄然とするか……読者は如何であろうか。 アスクネットに話を戻そう。トップページには「既存ユーザ様ASC-NET管理コンテンツは(株)メディアコマースリボリューション社へ管理を移行いたしております」とある。 メディアコマースリボリューション社については、筆者は何一つ知るところはない。ただ一点、代表取締役社長の氏名だけに注目するのみ。その名は言うまでもなく、KIRARA会長と同姓同名の「鄭明洙」氏である。 メディア・コマース・リボリューション社は韓国・朝鮮料理店のリンク集「韓ぐるめ」をも運営している。念のため、このkara.gr.jpのドメイン情報を見てみよう。登録者名欄に現れるのは、またしても「鄭明洙」氏なのである。
では、KIRARAのメールアドレスはどうか。 ムギテック社がここで登場する。 この企業についての筆者の見解も同様だ。医療画像システムや河川情報管理システムなど、公共の利益に適うすばらしいソフトを開発する優良企業であることは論をまたない。ここで注目すべきは一点、同社ページの定款事項である。 「会社案内」をご覧いただきたい。京都大学工学部出身者が多数を占めるエリート揃いのIT企業であることが一目瞭然だ。 そして風変わりな名前が目を射る。監査役には京都大学工学博士……そして冒頭記事では「科協顧問」として名を連ねていた、朱炫暾氏なのである。
鄭明洙氏が会長を務める「在日コリアン同胞による科学技術者ネットワークKIRARA」。そのウェブサイトが示す二つの企業名(URLとメールアドレス)から、一方ではまさに鄭明洙氏が、そしてもう一方では朱炫暾氏が重役として登場する。両名ともに、科協メンバーとして朝鮮大学校の記事に名を連ねている……これは単なる偶然の一致ではあるまい。ざっとネットを見回すだけでも、日本のIT産業のそこかしこに科協の根が張っていることをご理解いただけたであろうか。■ |