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本文は、当サイト運営者Vladimirが2004年に“別冊宝島Real 062「北朝鮮利権の真相2 日朝交渉「敗因」の研究」 ”に寄稿したものを、2008年の同書改訂に際し大幅に書き直したものです。 残念ながら編集部の意向により、出版物では後半の「北朝鮮の資源開発、現状は中国が独占」以下がほとんど削除されてしまいました。 (「わが国は資源に乏しい国と言われている……」以下が全文削除) ただやみくもに北朝鮮を敵視し、こきおろすのが編集者の方針とはいえ、この程度の「北に対する別の見方」を提示しただけでも、問答無用で削除されるのであります。 むろん、わたしはジャーナリスト(笑)の尊厳をかけて抵抗しました。しかし、いつもながら例の3文字が、ああ悲しきかな、頭上でぐらぐら揺れているのをわたしは見逃しませんでした。。 「原稿料を言われたら、沈黙せざるを得ない……」。ヴィトゲンシュタインも気付かなかったであろう、この深遠な真理の前に、わたしは屈服せざるを得なかったのであります。 というわけで、ここでは削除されなかった全文を掲載します。
北朝鮮地下資源を追え!2008文・Vladimir 米国の北朝鮮に対するテロ支援国指定解除が本格化しているなかで、いま世界中が、投資対象としての北朝鮮に熱い視線を向けている。今年5月に開かれた第11回平壌春季国際商品展覧会では総計17カ国から180社以上の企業が参加し活況を呈した。北朝鮮のいったい何が投資対象として魅力的なのか。一つは社会基盤資本(インフラ)の整備。もう一つは、かの地に手つかずのまま眠っている、膨大な地下資源である。 世界中の視線が集中する「ホットな投資対象」北朝鮮 2008年の外貨誘致額は北朝鮮史上最高額
2008年春~夏の平壌を一言で表現するなら「巨大な工事現場」。金星通り、千里馬通りなど平壌中心部の主要道路はアスファルト包装が完備し、高麗ホテル前の蒼光通りでは、通り沿いの飲食店が入居する建物が装いを新たにすべく再工事が進められている。昨年夏、水害に見舞われた玉流館と清流館を現代化するための改築工事もほぼ完了した。 1990年代初めに工事が中断され、北の経済沈滞の象徴とされていた105階建ての柳京ホテルも工事を再開。夕刻を過ぎてもホテルの最上階付近では、溶接の火花が輝いている。 慢性的な電力不足にあえぐ北朝鮮だが、平壌についてのみ言えば、夜もだいぶ明るくなった。2005年9月から進められてきた平壌市内の街灯交換作業がほぼ終了したからだ。街灯用として専用の電力線を設置し、IT技術を駆使した制御システムで平壌中の街灯をすべてコントロール。そのため平壌市内に停電が起きても街灯は影響を受けないという。だが、北の電力事情の好転がこの街灯システムの新機能の出番さえ少なくしている。驚いたことに平壌では、昨年末より一般家庭ですら停電がほぼ完全になくなった、というのである。 海外投資の本格的な波が平壌に押し寄せている。大きな流れの一つが、エジプトからやってきた。エジプトでホテル、通信、建設事業を営むオラスコム社(Orascom)は昨年1月、朝鮮逓信会社との合作協議を締結し、北朝鮮での携帯電話サービスに関する許可を獲得。つづく昨年7月には平壌明堂貿易会社と「祥原セメント連合企業所」運営に関する合弁契約を締結している(註:今年、オラスコムはセメント事業そのものをフランスの建設会社に売却したため、対北セメント事業投資は現在中断した状態となっている)。先述した柳京ホテルの工事再開について、その投資元は明らかになっていないものの、オラスコム経営陣が「会社としてではなく、プライベートに」投資している、というのが有力な説である(2008年7月現在)。 香港資本の進出も目立つ。女性CEOが運営する香港企業が北朝鮮側とともに創立した「金剛経済開発総会社」(KKG)による、大同江岸の大がかりな再開発である。平壌の統一通りに近接する大同江岸区画に、50階建てのツインタワーを中心とした商業地区「金剛通り(KKG Avenue)」を建設しようというのである。同社はすでに東平壌火力発電所をはじめとする、北朝鮮の発電所の現代化に必要な発電機や技術を提供していることでも知られている。 5月の第11回平壌春季国際商品展覧会には、中国企業、ヨーロッパ企業の参加も目立った。TCL電子(香港)有限公司、海爾(ハイアール)集団電機産業有限公司ら大手企業が、代理店の看板ではなく直接、本社ブースを出店した。また平壌欧州ビジネス連合会(EBAP:European Business Association in Pyongyang - http://www.eba-pyongyang.org/)が昨年に引き続き大々的に参加し大きな注目を浴びた。 北朝鮮の外資誘致の増加は部分的な統計でも明らかだ。国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計によれば、北の外貨誘致が大きくふくらんだのは2003年を基点としている。2003年以前の5年間で北が誘致に成功した外貨は年間平均100万ドル程度だったのだが、2003年からは年平均1億ドルを優に超えている。昨年の数値はまだ発表されていないものの、オラスコム社や金剛経済開発総会社などこれまで確認されたものだけでも5億ドルを突破するものと推定され、今年(2008年)の外資誘致額は北朝鮮史上最高に達するものと見られている。いっぽう北朝鮮の2006年度の輸出は、わずか16億ドルに過ぎなかった。 北に投資する国家は多様化している。いうまでもなくこれは北朝鮮自身が、中国資本に過度に依存するのを防止するためである。北朝鮮は、中国企業が北と合作契約だけを締結して、実際の投資は先送りしている事実に対し大きな不満を抱いていることがその理由の一つ。また「主体思想」「自主」を重んじる北朝鮮は伝統的に均衡を重視するため、特定国家が一方的に経済的影響力を行使するのを防ぎつつ、ヨーロッパや中東資本を誘致することに積極的態度を示している。早い話、中国一辺倒では北朝鮮は「自主」を失い、事実上の「南吉林省」化してしまうのだ。そのため従前より北朝鮮が、もっとも信頼できるビジネスパートナーとして熱い視線を送っているのがわが国・日本なのだが、「拉致問題の全面解決」を先行させる日本政府の方針と衝突し、結果として「北朝鮮という魅力ある市場」への参加が出遅れているのは否めない事実だ。 北朝鮮の鉱物資源総額は約240兆円!
さる1月16日、大韓鉱業振興公社は北朝鮮の鉱物資源の総額が約240兆円(2,287兆ウォン)であると発表した。これは韓国における鉱物資源総額(約10兆円)の24倍に達する。 発表によれば、特に「電子機器と自動車」という二大産業において必要不可欠ともいえる最軽量の実用金属であるマグネシウム(マグネサイト)の埋蔵量は推定40億トン。同公社によれば世界第1位の埋蔵量である。また鉄鋼生産の際に酸化剤として使用されるマンガンが約30万トン、タングステンは約25万トン、モリブデンは5万4千トンに達している。一般鉱物も豊富であり、鉄鉱石が50億トン、有煙炭160億トン、無煙炭45トン、そして最近になって価格が急騰している金は約2000トンほどが埋蔵されているものと推定されている。 世界的に原資材の需要が増加し価格上昇の著しい現在、北朝鮮もまた経済難の打開策として、ふんだんに埋蔵された鉱物資源に着目している。金正日は昨年8月、端川採掘機械工場を訪問した際、鉱山採掘機械の技術開発を強調しつつ、そのような意思を表明している。 | 朝鮮半島の鉱物資源埋蔵量比較 | | 鉱物品目 | 北朝鮮 | 韓国 | 単位 | 備考 | | 金 | 2000 | 41 | トン | | | 銅 | 290 | 5.6 | 万トン | | | 鉄鉱石 | 50 | 0.2 | 億トン | | | 有煙炭 | 160 | - | 億トン | | | 無煙炭 | 45 | 13.7 | 億トン | | | 石灰石 | 1000 | 85 | 億トン | | | マグネサイト | 40 | - | 億トン | 世界第2位 | | タングステン | 24.6 | 127 | 万トン | | | モリブデン | 5.4 | 1.4 | 万トン | | | マンガン | 30 | 17 | 万トン | | | 黒鉛 | 200 | 6.9 | 万トン | 世界第3位 | | (資料:大韓鉱業振興公社) | そうしたなか、英国のロンドンではいま、ウラニウムを含む北朝鮮の鉱山利用権を確保するための海外投資ファンドの動静が本格化している。 イギリスの投資企業アングロ・シノ・キャピタル社(Anglo-Sino Capital Partners Ltd)は一昨年9月、英国金融監督庁(FSA)から許可を得て500万ドル規模の「朝鮮開発ファンド」を設立。だがアメリカによる対北朝鮮テロ支援国指定解除の動きが表面化した昨年10月には「ファンドを1千万ドルに増やした」ことを明らかにした。また他の投資企業ファビエン・ピクテ社(Fabien Pictet & Partners Ltd)は、北朝鮮との取引実績をもつ現代グループなどを投資対象に選定し、これら韓国企業との共同で対北投資を行う予定であるという。 北朝鮮開発ファンドの嚆矢は現在、平壌の外国系銀行である大東信用銀行(DCB) 対外交渉代表であるコリン・マカスキル(Colin McCaskill)氏であった。もと英国海軍技術将校だった彼は2001年9月、北朝鮮開発ファンドのアイディアを米国政府に打診したところ、米国の東アジア・太平洋担当国務次官補だったジェイムズ・アンドリュー・ケリーから「米国法に合致する限りファンド設立には反対しない」との口約束を得た。だが1年後の2002年10月、北朝鮮のウラン濃縮疑惑が表面化すると、アメリカの投資家はマカスキル氏のファンドと手を切った。そのためのち、彼自身は本拠地をロンドンへと移したのである。 だが米国のテロ支援国指定が解除されれば、アメリカの投資家もロンドンを経由して対北投資ファンドに参加できる。そのため米国の穀物メジャーのひとつであるカーギルをはじめ、巨大建設企業ベクテル、ゴールドマン・サックス、シティグループらが鉱物資源の豊富な北朝鮮に投資するという、強い意欲を見せている。 北の地下資源
先に述べたとおり北朝鮮は地下資源の宝庫だ。朝鮮半島の地下資源の分布を見ると、七〇%以上の鉱物資源が北朝鮮地域に偏在しており、石炭や鉄鉱の場合では九〇%以上が北朝鮮地域に埋蔵されている。 北朝鮮は狭い面積にかかわらず、先に挙げたマグネサイトをはじめ、重石、モリブデン、黒鉛、銀、鉄、鉛、亜鉛、アルミニウム、石炭など、経済的に価値ある多様な種類の地下資源が埋蔵されている。 以下に、北の地下に眠っている「宝物」をざっと見てみよう。 * 金~東洋一の「雲山金鉱」と、市場影響力が「ドルから金(ゴールド)への大転換」? 平安北道雲山郡の雲山金鉱は、何を隠そう東洋一の金鉱であった。この雲山金鉱の驚くべき実態に関しては酒井敏雄氏の著作「北鎮の歴史」(草思社刊)詳しい。 酒井氏は雲山の金の生産拠点である、平安北道雲山郡の北鎮で生まれ育った科学者だ。 雲山金鉱の開山は高麗時代に遡る。朝鮮時代は官営操業されていたこの雲山金鉱に眼をつけたのは、ゴールドラッシュの終焉を迎えた十九世紀末のアメリカであった。一八九五年、朝鮮政府は雲山郡の鉱業権をアメリカ人ジェームズ・モースに与えた。このことが朝鮮半島に侵出を図ろうとしていた列強に、大きな影響を与えることになる。 政商モースと組んで「朝鮮鉱山開発」を設立したのが駐朝鮮アメリカ公使のレイ・ハントであった。のち、ハントは上院議員スロート・ファセットを社長に迎え「ハント・ファセット商会」を設立。「朝鮮鉱山開発」は一八九八年五月、「ハント・ファセット商会」に吸収された。 このとき登場したのがアメリカ国務省だった。国務省は「ハント・ファセット商会」に資金援助し、同社は同年七月に「東洋合同鉱業」に社名変更している。 東洋合同鉱業は当時、アメリカが朝鮮北部に展開していたスタンダード・オイル・カンパニー(資本金七百万ドル)に次ぐ規模で、資本金は五百万ドルであった。スタンダード・オイル・カンパニーが朝鮮半島全域を視野に入れていたのと比べ、東洋合同鉱業は雲山金鉱開発に専念していたのである。雲山金鉱が如何に大きな規模であったかがわかる。 この東洋合同鉱業を買い取ったのが日本鉱業。昭和十四年のことであった。 雲山にある八ヶ所の鉱脈には、合計九百二・三トンの金が埋蔵されている計算になるという。 だが雲山金鉱は現在、ほとんど手つかずのままだ。その理由は第二次世界大戦の勃発。金山採掘のための設備がほどんと取り払われ、銀や銅、鉛、亜鉛な.ど軍事工業に欠かせない金属の鉱山へと廻されたからである。記録によれば、昭和十八年四月以降、金の採掘はほとんど行われていない。 戦前に雲山金鉱から採掘された金は、開山以来五十年で約百トンである。だが北朝鮮政権以後、雲山の再開発が行われた形跡はない。 その理由の一つは水。戦争により採掘が停止した雲山金鉱は管理不全のため、地下水が湧き出すまま放置されてきた。この水を掻き出す技術も資金も北朝鮮政権は持ち得なかった。 もう一つは――これは推測だが、資本論が関係していると思われる。簡単に言えば「金は本質的に労働に見合う対価以下の価値しかない」とする考えである。第一次大戦後にアメリカの金本位制は崩壊。紙幣が金と交換される保証は北朝鮮成立以前に失われている。だから雲山の再開発は北の計画経済プランから外されたのかもしれない。 ならば、平安北道雲山郡にはまだ八百トンの金が残されているのことになる。 レイ・ハントは当時の共和党のリーダーでもあった。また東洋合同鉱業への変更時には、米国務省が多大の出資を投じている。アメリカにとって雲山金鉱とは歴史的経緯からなじみ深いと同時に、再開発に必要な最新の採掘技術も資金力も持ち合わせている。南アフリカの金山に比べれば、北朝鮮の金山はみな若い山である。今後の可能性が期待されているが、特に雲山金山の特徴として、白金が産出されたことが挙げられよう。 世界的投機家であり哲学者でもあるジョージ・ソロスは「サブプライム・ローン問題に端を発する金融危機はアメリカの信用を根底から覆した。これは国際基軸通貨としてのドルの終焉を意味している」と述べ「今後は信用創出を悪用したアメリカの凋落が始まる。そして中国を筆頭とする新興市場が台頭する。市場をコントロールする影響力の源泉はドルから金への大転換が避けられない」と警告している。米ドルの下落傾向により「新・金本位制」の復活さえささやかれている現在、アメリカが新たなる「市場をコントロールする影響力の源泉」を手に入れるには、新たな金山を開くより、北朝鮮の雲山金鉱を再開発するほうがはるかに有望といえよう。今後の米朝関係において、この雲山金鉱はどのような役割を果たすのかが、注目されるところだ。 * タングステンとモリブデン~韓国が金剛山開発に執着する理由 高硬度、高密度、高融点を有するタングステンは自動車、工作機械、半導体、電子部品などの産業を支える材料として広く使用されている。また高性能磁石のKS鋼の素材として希少性の高い金属である。 朝鮮半島北部には多くのタングステンが埋蔵されており、特に黄海道にその六割が分布している。戦時にも、特殊鋼の増産こそが軍需産業の骨格として、朝鮮北部では小林鉱業が採鉱から精錬、加工までを一手に引き受けていた。 ところで、北朝鮮と韓国の現代峨山が観光事業の要として打ち出す金剛山観光地区……。実はこの金剛山も、有望なタングステン鉱山なのである。昭和十年代後半には、軍需産業の要請から朝鮮半島ではゴールドラッシュならぬタングステン・ラッシュが発生した。 靭性に優れたモリブデン(水鉛)もタングステンと同様、高速度鋼の発明以後、飛行機や人工衛星などに広範囲に使われ、軍需産業資源として重要視された。モリブデン鉱山として有名なものに、金剛山と黄海道の天恵鉱山がある。実は江原道にもいくつか鉱区はあるのだが、まさにその鉱区の上を三八度線が走っている。 地球上に存在量が少ない金属や、量は多くとも経済的・技術的に純粋なものを取り出すのが難しい金属を「レアメタル」(希少金属)と総称する。学術的には三十一種あるレアメタルのうち、代表的な七鉱種(ニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウム)は磁性材料や電子部品を作る原料となり、国家備蓄の対象となっている。 この七鉱種のうち二つ、つまりタングステンとモリブデンが金剛山には豊富に存在するのである。なぜ韓国政府が赤字続きの「金剛山観光開発」に拘泥するのか、その真の理由の一端が垣間見えるではないか。 * タンタル~IT産業に不可欠なレアメタル 今世紀に入るとタンタルの世界的需要は大きく伸び、価格の暴騰を招来した。IT革命がその原因だ。粉末や線材、箔材に加工し、携帯電話やパソコンに使用されるタンタル電解コンデンサーの材料として、である。九十四年から続くコンゴ内戦は、タンタル鉱山の争奪戦でもあるのだ。そのタンタルが北朝鮮江原道平康郡に眠っている。豊富なタンタル鉱石の存在が朝鮮総督府下で調査確認されているものの、まったくと言っていいほど手つかずである。IT革命が起きる半世紀以上も前には、タンタルコンデンサーの需要は存在しなかったからだ。 昨年、ようやく韓国の大韓鉱業振興公社と北の民族経済協力連合会が共同で、江原道のタンタルを共同探査すると発表した。 * レア・アース(希土類)~中国の独占を打ち破る可能性 液晶モニター、永久磁石やハードディスク類の小型モーター、二次電池、自動車排気ガス分解触媒、そして超伝導物質……先端産業を支えている素材の一つが希土類元素(レア・アース)である。「希な」はずの希土類、実際の存在量の点ではちっとも希ではないのだが、多くの工業国にとって貴重なことには変わらない。その理由は、希土類の八五%が中国に分布しているという、圧倒的な偏在と市場独占のためである。 北朝鮮に希土類が豊富に埋蔵されていることが判明したのは、朝鮮総督府の地下資源探査であった。日本窒素肥料は映画や青写真、医療用に使われるアークカーボンの製造に必要なフッ化セリウムの生産のために、平安北道鉄山のモナザイト開発を手がけていた。モナザイドにはさまざまな希土類元素が含まれているのだ。 北朝鮮は九一年四月、日本の在日企業との合弁で、咸鏡南道咸興市に「国際化学合弁会社」を発足し操業を始めた。「九一年科協学術報告会」の資料によれば、その事業内容は希土類元素を含む鉱石の製錬である。 「平安南道の鉄山に産する原鉱を選鉱したモナザイト精鉱(六五%以上)の処理能力は、年間千三百トンであり、製品は一部国内の工業需要にまわすほか、そのほとんどを日本など西側諸国向けへの輸出を計画している」(朝鮮商工新聞1991年7月23日より引用)。 我が国が北朝鮮の希土類生産に注目する必要があるのは、このまま放置すれば北のレア・アース産業が丸ごと、中国に押さえられるおそれがあるからだ。「国際化学合弁会社」の現状把握は日本にとって、重要な国家戦略となるはずだ。 * ニッケル~小型・超寿命な水素電池の素材 超新星の爆発で生まれたニッケルは腐食に強く加工が容易であるため合金はもちろん、IT時代の現代では携帯電話やノートパソコン用の、超寿命で省スペースな二次電池の素材として需給が逼迫している。レアメタルの筆頭にも挙げられるニッケル……「朝鮮鉱区一覧」(昭和十六年七月一日現在)で見る限り、北朝鮮には含ニッケル鉱が咸鏡南道に七鉱区、江原道には四鉱区ある。戦時、ニッケルは特殊鋼の生産に欠かせない有用金属だったからである。 「日朝貿易の手引」(日朝貿易会、一九七〇年六月刊)によれば、日本は六十年代後半、北朝鮮からニッケルを輸入してはいる。だが六九年以降、この輸入は途絶えてしまう。だが同じ日朝貿易会が発行した「朝鮮民主主義人民共和国の資源・産業概況」(八七年刊)には、「ニッケル鉱は世界的にも埋蔵量の少ないものであるが、近年、朝鮮での開発が進んでいる」と記されている。北は特殊鋼生産で、ニッケルを独自に使用しているのであろうか。 イギリスの小企業、北朝鮮石油利権を確保
以上、北朝鮮の地下資源のうち、有用な鉱物についてざっと俯瞰してみた。だが北のアンダーグラウンドに眠るのは、鉱物資源だけではない。 2004年9月、サンデーテレグラフ紙が衝撃的なニュースを報じた。 イギリスにある小さなアイルランド系石油会社アミネックス(Aminex)社が、北朝鮮との石油および天然ガス採掘権契約を締結したのである。同紙によればこの締結はすでに六月三十日になされており、アミネックス社は今後二十年間、北朝鮮内の石油および天然ガス採掘を技術的に支援し、新しい油井の産出物に対して使用権収入を得ることで北朝鮮政府と合意したという。サンデーテレグラフ紙による報道の翌日、同社の株価は急騰(前日比36%高)。 北朝鮮はもともと微少ながらも産油国であり、三十年以上も前から石油探査を行っている。六五年八月に「燃料資源地質探査管理局」を立ち上げ、平安南道安州市肅川郡に原油探査研究所を設置している。 この原油探査研究所の成果が現在、北の原油生産の拠点として知られる肅川郡油田である。北はここで九九年から最低でも年間三十万トン(二二〇万バレル)の原油を生産してきた。 石油探査の大きな問題はボーリングの財源である。いくら近海は水深が低く、試錐孔一つをあける費用が四百万~五百万ドルに押さえられるとはいえ、確率からいえば20分の一か一〇分の一。つまり、二〇ヶ所の試錐孔から、「当たり」は一~二ヶ所である。北朝鮮には到底、手の余る代物だったのだ。 石油探査は膨大な予算を必要とする。だが、ロンドンに所在するアイルランド系の、これまで誰も聞いたことのないような小さな石油会社が北朝鮮を口説き落として、採掘に乗り出したのである。 北朝鮮の資源開発、現状は中国が独占
北朝鮮の地下資源をめぐる可能性を考えるにあたって現在、念頭に入れておかなくてはならないのは、中国が北朝鮮の資源開発を事実上独占しているというところにある。換言すれば、ヨーロッパやアメリカはようやく北朝鮮の地下資源に対し、本格的に手を伸ばす準備を整えた段階であるといえよう。中国の「先行獲得」に対し、オーストリアのRHI(Radex Heraklith Industriebeteilgungs AG)社が昨年、端川のマグネサイト鉱山に800万ユーロを投資することを決めた程度である。 韓国の大韓商工会議所の発表によれば中国はさる2006年、北朝鮮投資の70%を資源開発に集中して、2億7,450万ドル(約298億円)の鉱物資源を導入した。同年の韓国の導入額は5,970万ドル。中国の21%にしか達していない。 特に中国は北朝鮮産のレア・アースに注目、タングステン、マグネサイト、モリブデンなど主要な5種類の鉱物を投資対象に選び、調査・開発・販売権を確保した。 また中国は北東アジア最大の鉄鉱石埋蔵量を誇る咸鏡北道茂山郡の茂山鉱山(推定埋蔵量30億トン)の50年間の採掘権を70億元(約1020億円)で獲得。北朝鮮最大の無煙炭鉱山である竜登炭鉱(平安北道)における50年間の採掘権をも獲得し、開発に着手している。 わが国は資源に乏しい国と言われている。したがって資源大国になるのは不可能だと思われがちだ。しかし海外の事例を見れば、必ずしもそうではないことがわかる。日本と同様、国内資源は不足しているものの、2006年の世界鉱物企業のうち資産第3位のエクストラータ社を擁するスイス、石油メジャー5社のうちの1社であるトータル社を擁するフランスなど、世界水準の資源開発企業を保有している国もある。また反対に資源埋蔵量が多くとも、技術や資金、また政府レベルでの資源開発専門人材が不足すれば、資源産業の発展は望めない。アフリカ、中南米、中央アジアのかなりの国が資源を豊富に抱えていながら、思うままに開発できないのは概ねそうした理由からである。わが国近海(東シナ海の日本領海)には原油1000億バレル以上、天然ガス2000億m3の資源が眠っていると推定されているが、これを採掘できない最大の原因は中国との外交問題。資源が身近にあるからといって、すぐに採掘利用できるわけではない。 しかし資源と国家との一筋縄ではいかない関連を見直せば、日本でさえ海外資源開発の力量を備え、積極的に努力すれば資源大国になりうる可能性さえあることも理解できよう。中国やインドなど新興工業国の需要が急増し、「資源民族主義」が深刻になっている現在、資源のほとんどを輸入に頼る日本としては、エネルギー・資源確保は最優先課題となる。安定的な資源確保なしに持続的経済成長を期待することのできないわが国が資源大国になるための現実的な道を進むには、少なくとも次の2点をクリアする必要がある。 まず海外資源開発、あるいは資源大国となるベースは、しっかりとした国内鉱業にある、ということだ。国内鉱業における優れた人材、技術力といった基盤なしに海外資源を開発することはできない。石炭・石灰石以外の鉱物に対するわが国の民間企業の探査・開発能力を世界最先端レベルにもっていくこと、そのための投資を直ちに始めること……これがまず1点目だ。 次に、いまからでも遅くない、北朝鮮の地下資源開発に参加することである。それには日朝国交正常化がまずは不可欠であろう。先に述べた茂山鉱山は、1930年代に三菱鉱業が開発した山だ。中国が現在盛んに投資している鉱工業施設の多くは、もともと植民地時代に日本が作り上げた「帝国の遺産」である。戦前の日本が作成した埋蔵資源に関する豊富なデータ等の蓄積もある。北朝鮮の地下資源開発競争という場に参加すれば、わが国は最初から大きなアドバンテージを得ることさえ可能だ。北朝鮮の豊富な地下資源を目前に、わが国はかつて、かの国の宗主国であったことをもう一度思い出してみようではないか。何も戦前の日本を賛美しているのではない。近代史における日本と朝鮮半島との関係性を考えれば、現在の北朝鮮の地下資源を中国やヨーロッパにさらわれるのを、指をくわえたまま傍観していていいはずがない。植民地時代の謝罪であろうと、あるいは民間レベルでの支援であろうと、われわれには、そこに行く十分な理由があるはずだ。 地下資源を見なければ北朝鮮は見えまい。それほどまでに北の地に眠る資源は、世界の未来にとって魅力に満ちた、影響力ある存在なのである。 おもな参考文献: 「日本統治下の朝鮮・北鎮の歴史」(酒井敏雄:草思社刊) 「日朝貿易の手引き 1970年」(日朝貿易会) 「マグネシウムに見る省エネ材料の明日」(AIST Today誌記事より) 「東アジア経済情報」(東アジア貿易研究会会報) 「北朝鮮の軍事工業化」(木村光彦・安部桂司:知泉書館)
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